
筑波大学大学院の5年一貫制博士課程とは?ヒューマニクス・ヒューマンバイオロジーの魅力と入試対策
「修士課程と博士後期課程を分けず、早い段階から本格的な研究に取り組みたい」「医学と工学、生命科学と情報学など、複数の専門分野を組み合わせた研究をしたい」と考えている方もいるのではないでしょうか。
筑波大学大学院には、通常の博士前期課程2年と博士後期課程3年という区分とは異なり、5年間を通して教育と研究を行う5年一貫制博士課程があります。
代表的なプログラムには、生命医科学と理工学・情報学を融合するヒューマニクス学位プログラム、ヒトの生命現象を幅広く研究するヒューマンバイオロジー学位プログラム、人の能力を支援・拡張する技術を研究するエンパワーメント情報学プログラムなどがあります。
この記事では、筑波大学大学院の5年一貫制博士課程の特徴、各プログラムの研究内容、求められる人物像、研究計画書や口述試験の対策について解説します。
5年一貫制博士課程とは?
5年一貫制博士課程とは、入学から博士号取得までの5年間を一つの教育課程として学ぶ制度です。
一般的な大学院では、博士前期課程を2年間で修了して修士号を取得した後、博士後期課程へ進学します。博士後期課程へ進む際には、改めて入試を受けることもあります。
一方、5年一貫制博士課程では、入学時点から博士号取得を見据えた研究計画を立て、基礎から高度な研究まで段階的に進めます。
早い時期から長期的な研究に取り組めることが魅力ですが、入学後5年間にわたって研究を継続する意思と計画性が必要です。「修士号だけ取得して就職したい」という方よりも、研究者や高度専門人材として長期的に活躍したい方に向いています。
5年一貫制博士課程のメリット
大きなメリットは、修士と博士を分けず、5年間の研究計画を立てられることです。
修士課程の2年間だけでは難しい大規模な実験、長期間のデータ収集、複数分野を組み合わせた研究にも取り組みやすくなります。
また、異なる専門分野の教員から指導を受けられるプログラムもあります。例えば、医学系と工学系の教員から指導を受けることで、医療現場の課題と技術開発の両方を踏まえた研究を進められます。
海外研修、国際共同研究、企業や研究機関との連携などが教育課程に組み込まれる場合もあり、研究成果を社会へつなげる経験を積めることも特徴です。
ヒューマニクス学位プログラムの特徴
ヒューマニクス学位プログラムは、生命医科学と理学・工学・情報学を組み合わせ、人間の健康や医療に関わる新しい研究領域を開拓する5年一貫制博士課程です。
例えば、医学とAIを組み合わせた診断支援、生命科学とロボティクスを活用した医療技術、工学的な手法による生体機能の解析などが考えられます。
特徴の一つが、異なる専門分野の教員による指導体制です。生命医科学系と理工・情報系など、複数領域の視点を取り入れながら研究を進めます。
一方の分野だけを深く学ぶのではなく、異なる研究言語や方法を理解し、それらを結びつける力が必要です。
求められるのは、高い基礎学力に加え、自分の専門とは異なる分野を学ぶ意欲を持つ人です。「医学にも工学にも興味がある」というだけでなく、2つの分野を組み合わせて何を明らかにしたいのかを説明する必要があります。
ヒューマンバイオロジー学位プログラムの特徴
ヒューマンバイオロジー学位プログラムは、ヒトの生命現象を幅広く理解し、医療、健康、環境などの地球規模の課題解決を目指す5年一貫制博士課程です。
ヒトの生命維持、発達、老化、環境への適応、遺伝などを、分子、細胞、個体、社会といった複数の段階から研究します。
生命科学や医学の知識だけでなく、研究成果を社会へ生かす視点も重視されます。創薬、医療技術、健康政策、国際保健などへ研究を発展させることも考えられます。
授業や研究活動で英語を使用する機会も多く、海外の研究者や留学生と議論しながら研究を進める力が求められます。
生命科学の基礎を持ち、ヒトの健康に関する課題へ国際的な視点から取り組みたい方に適したプログラムです。
エンパワーメント情報学プログラムの特徴
エンパワーメント情報学プログラムでは、情報技術や工学を活用し、人間の身体、感覚、知的活動、社会参加を支援・拡張するシステムを研究します。
研究分野には、AI、ロボティクス、サイバニクス、VR・AR、センシング、人間情報学などがあります。
例えば、高齢者や障害のある方の移動を支援する機器、感覚を補助するシステム、遠隔地での共同作業を支える技術などが研究テーマになります。
重要なのは、技術を開発すること自体を目的にしないことです。誰がどのような場面で困っているのか、既存技術では何が足りないのか、開発した技術の効果をどのように評価するのかを示す必要があります。
工学や情報学の基礎力に加え、人間や社会への理解を深める姿勢が求められます。
経済支援は必ず条件を確認する
卓越大学院プログラムなどでは、研究奨励費、研究費、海外渡航費などの支援が行われる場合があります。
経済的な支援を受けられれば、アルバイトの時間を抑え、研究へ集中しやすくなります。海外の研究機関で学ぶ際の費用負担を軽減できる可能性もあります。
ただし、プログラムへ合格すれば全員が同じ支援を受けられるとは限りません。選考、支給期間、金額、収入条件、ほかの奨学金との併給条件などが設定される場合があります。
5年間の学費と生活費を考え、支援を受けられない場合も含めて資金計画を立てておくことが大切です。
求められる英語力
5年一貫制博士課程では、英語による授業、論文講読、研究発表、海外研修などが行われる場合があります。
入試では、TOEIC、TOEFL iBT、IELTSなどの外部英語試験のスコア提出を求められることがあります。
TOEIC800点以上、TOEFL iBT80点から90点以上などが一つの目安として挙げられることもありますが、筑波大学大学院全体で共通する合格基準ではありません。
必要な試験、最低点、スコアの有効期間、提出方法はプログラムごとに異なります。過去の合格者の点数だけを目標にせず、最新の募集要項を確認しましょう。
英語は入試を通過するためだけではなく、入学後に研究を進めるために必要です。論文を読み、専門内容を説明し、質疑応答に対応する練習も進めておきましょう。
研究計画書では異分野を組み合わせる理由を示す
5年一貫制博士課程の研究計画書では、研究背景、先行研究、問い、目的、方法、期待される成果を示します。
特に重要なのが、なぜ複数の専門分野を組み合わせる必要があるのかという点です。
例えば、「医療にAIを活用したい」だけでは具体性がありません。どの医療課題を対象とし、従来の方法にはどのような限界があり、AIを使うことで何を改善できるのかを説明します。
さらに、医学側のデータをどのように取得し、情報学側でどのように分析するのかなど、分野同士の役割を明確にする必要があります。
単に複数の流行分野を並べるのではなく、それぞれの専門が研究目的の達成に欠かせないことを示しましょう。
5年間の研究計画を具体的にする
通常の修士課程より長い期間を使えるからといって、研究テーマを必要以上に広げることは避けましょう。
研究計画書では、5年間でどの段階まで研究を進めるのかを示します。
例えば、1年目に基礎科目の履修と先行研究の整理、2年目に予備実験、3年目に本実験とデータ分析、4年目に追加検証と論文投稿、5年目に博士論文を完成させるという流れです。
実際の進行は研究内容によって異なりますが、必要な設備、研究対象、データ、共同研究者などを考え、実現可能な計画にすることが重要です。
研究が予定どおり進まなかった場合の代替方法も考えておくと、計画の現実性を説明しやすくなります。
志望指導教員への事前連絡
5年一貫制博士課程を志望する場合は、研究内容に合う教員を早めに探しましょう。
ヒューマニクス学位プログラムのように複数分野の指導を重視する場合は、一人の教員だけでなく、研究を支える複数領域の教員を確認する必要があります。
教員へ連絡する前には、最近3年から5年程度の論文、研究プロジェクト、使用している設備や方法を調べます。
メールでは、自分の専門分野、研究したい課題、異分野を組み合わせる理由、5年一貫制を選ぶ理由などを簡潔に伝えます。
事前連絡や受け入れ確認の要否はプログラムによって異なります。教員から前向きな返答を得ても、入試の合格が保証されるわけではありません。
口述試験で問われるポイント
口述試験では、これまでの学習内容、研究計画、志望理由、専門知識、英語力などが確認されます。
想定される質問には、「なぜ通常の博士前期課程ではなく5年一貫制を選ぶのか」「2つの専門分野をどのように結びつけるのか」「研究成果を社会へどう生かすのか」などがあります。
また、5年間研究を継続できるか、研究者としてどのような将来像を持っているかも確認される可能性があります。
研究の新規性だけでなく、必要な知識をどのように身につけるのか、異分野の研究者とどう協働するのかを説明できるようにしましょう。
プレゼンテーションがある場合は、研究背景、問い、方法、融合する分野、5年間の計画を短時間で説明する練習が必要です。
異分野出身者が準備したいこと
5年一貫制博士課程では、入学時点ですべての専門知識を持っている必要はありません。しかし、自分の専門分野の基礎力は求められます。
工学系出身者が医学研究へ進む場合は、生物学や生命科学の基礎を学ぶ必要があります。生命科学系出身者がAIを使う場合は、数学、統計、プログラミングなどの準備が必要です。
「入学後にすべて教えてもらう」という姿勢ではなく、出願前から不足している知識を学び始めましょう。
面接では、現在の専門と不足している分野を把握し、どのような計画で補うのかを説明できると、異分野融合への準備姿勢が伝わります。
5年一貫制博士課程が向いている人
5年一貫制博士課程は、早い段階から博士号取得を目指し、一つの研究テーマへ長期的に取り組みたい方に向いています。
異なる分野の知識を学ぶことに抵抗がなく、専門の異なる研究者と協力できる方にも適しています。
一方、修士課程の2年間で就職するか博士課程へ進むかを判断したい方や、研究テーマがまだ定まっていない方は、通常の博士前期課程の方が合う場合もあります。
プログラムの名称や支援制度だけで選ぶのではなく、5年間研究を続けたいテーマがあるか、博士号取得後の進路をどのように考えているかを整理しましょう。
まとめ
筑波大学大学院の5年一貫制博士課程では、修士と博士の区分にとらわれず、5年間を通して高度な研究に取り組めます。
ヒューマニクス学位プログラムでは生命医科学と理工・情報学、ヒューマンバイオロジー学位プログラムではヒトの生命現象と地球規模の健康課題、エンパワーメント情報学プログラムでは人間を支援・拡張する情報技術を研究します。
入試では、高い基礎学力や英語力だけでなく、異分野を組み合わせる必要性、5年間の研究計画、将来の目標を論理的に示すことが重要です。
研究計画書では、複数の専門分野を並べるだけでなく、それぞれをどのように結びつけ、新しい知見や技術を生み出すのかを具体的に説明しましょう。
志望指導教員の研究内容とプログラムの教育方針を早めに確認し、英語、専門知識、研究計画、口述試験の準備を計画的に進めることが合格への第一歩です。
※5年一貫制博士課程の名称、募集状況、授与学位、英語スコア、事前連絡の要否、経済支援、入試方式などは年度やプログラムによって変更される場合があります。出願前には必ず筑波大学公式サイトと最新の募集要項をご確認ください。
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※この記事は専門家による監修のもと執筆されています。
この記事を監修した人
小杉 樹彦(こすぎ・たつひこ)
志樹舎 創業者/博士(学術)
慶應義塾大学院修了後、2015年1月に院試専門オンライン予備校「志樹舎」を設立。
代表講師として10〜60代まで延べ5,000人以上の受験生を指導。
早慶・国公立をはじめとする難関大学院で合格率9割超の実績を持つ。
現在は大学院入試対策の専門家として、テレビ・新聞・雑誌など幅広いメディアで活動中。
ロングセラー『減点されない!勝論文』(エール出版社)ほか著書・論文多数。


